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ジョルジュ

Author:ジョルジュ
心母少女最終話更新
完結おめでとうございます。
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( ^ω^)ブーンと心母少女のようです 23 

15 : ◆psKazldTFWG.:2009/06/22(月) 23:54:11.26 ID:Bp0yQZmR0
23.Fall Out ~Theme of "Dear Friends"~(終章)






・終結と嗚咽





1995年10月27日。秋風は吹き荒ぶので枯れ葉は右往左往に舞い散る。



その夜は目覚めてすぐに訪れた……といっても、それはデレの体感であって、


デレにとってみればもう、三十分も十時間も大差がないほどであった。



月明かりを窓越しに凝視しながら、デレはなにかを忘れているような気がしてならなかった。

目の前が暗くなるようなショック、はかばかしい面倒ごとが後に待ち受けているような……

運転免許証を入れた財布をどこかへ落としたことに、ようやく思い至ったような……。



なにかしないといけないのに、どうすればいいのか分からない焦燥感に襲われていた。


デレはびくびくしながら部屋を見渡したが、しかし、なにかがあるはずもなかった。



「もう、十月も終わり……」



ここ最近、とくにデレは独り言が多くなってきた。

思考がそのまま周囲にだだ漏れてしまっているが、相変わらず

一人ぼっちなので、どうということはない。








 



16 : ◆SIXTEEN.p2[酉これにする] :2009/06/22(月) 23:57:12.08 ID:Bp0yQZmR0

今日もまた少女地獄を読み返す。お気に入りの「火星の女」は相変わらず

デレのこころを揺さぶった。火星の女の、校長への入り交じった思いは、

いかんともしがたい共感を覚える。



部屋はすでに暗くしてあるので、窓から入ある光のみで活字をむさぼる。

最後まで読みきったところで疲労が頂点に達した。どっとベッドに


寝転がると、単行本を胸に抱きしめて瞼を閉じる。



眼球の奥がじいんと痛む。一拍おいてから目を見開くと、涙がどっと押し寄せた。

薄暗い自室が、月光のシャンデリアに照らされている。

ろくに拭かずにじっとしていると、視界が気味の悪い変化を遂げていく。



これがワンダランドなのかなあ……デレはふと、クーのことを思い出した。


いつも口癖のように空想世界のことを話題にしていたが、彼女の求める世界というのは、

きっと自分の肉体の行く末に違いない。



さいきんは交換日記も来ないし、扉も開けていないので

ろくな交流をしていないが、そういう部分の意思疎通は取れているつもりだった。






17 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:01:06.39 ID:d8AmUb9i0
単行本を枕のそばにおいてから、布団に丸まった。




さて、この季節はストーブを夜には必ずつけていたが、あいにく

灯油は底をつきている。補給するには外を出なくてはいけないので億劫だ。

というわけで、デレは寒さを耐え忍んでいるのだが、ふとくだらない妄想が頭を過ぎった。



鼻で笑ってから、しかし面白いなと思った。デレにとって重要なのは、もはや

自分の命より自分が成し遂げることなので、冗談でなく実行してやるとすら口にできる。




私の破滅は私の破滅……デレはそんな文章を復唱した。





「私の破滅はだれの破滅?」





まず思いつくのはクーだった。彼女が自分に友情をこえた何かを抱いているのは


常々感じているところだが、しかし破滅といくには自意識過剰な気もする。



家族にしたって、いくらなんでも破滅とまではいかないだろう。

悲しむには違いないだろうけれども、それはそれで当然のことだし、

常識の範疇でおさまる範囲内に違いない。

ペニサスにいたっては嫌っているくちもあるので、裏ではほくそ笑むかも知れない。






――私の破滅は、私の破滅でしかない……。







 


19: ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:04:20.14 ID:d8AmUb9i0
むしょうに淋しくなったが、引きこもっている自分自身を思うとしょうがないという気もする。

息も穏やかになってきた。脳髄がじいんと波に揺れた。




眠気が襲ってきたので、デレは逆らわずに息を整えた。

そうするうちに、意識はぼんやりぼんやりと薄らいでいった。……





1995年10月28日。

起床時、デレの額は寝汗で濡れていた。

よっぽどの悪夢をみたらしいが、とうのデレは内容を忘れてしまった。


すでに九時を回っていたので、デレは部屋を出て居間に向った。

家族のいない時間帯なら、ある程度は自由に家を回ることが出来た。



冷蔵庫から牛乳を、棚の菓子パンを一つでデレは朝食を取り出した。

牛乳をコップに注ぎながら、今日も何一つすることないなと嘆いた。

あるとするなら読書くらいだけれども、しかし暇つぶしにすぎない。




今朝は底冷えた。

ストーブをつけてみて、部屋の灯油が切れていることを思い出す。



替えは庭に裏にあるはずなので、ガウンをきてから向った。






 

21 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:07:44.32 ID:d8AmUb9i0
ζ(゚ー゚*ζ「よいしょ、よいしょ」




重いポリタンクを引きずって中へ持っていった。

部屋先のを補給したが、ずいぶんと余ってしまった。

まだタンクの半分以上も残っているが、戻すのも億劫なので、

ひとまずベッドに寝転がって本を取り出した。



相変わらずの少女地獄の、相変わらずの火星の女を一から読み直す。


新聞記事からはじまるストーリーに気がつけばのめり込んでいた。

あっという間に読了すると、ひとまず頁を閉じる。

新しい小説でも読みたいが、そんな気力もない。

かといって忙しいわけでもない……ただただ気だるかった。



灯油くさい掌を擦りながら、デレは怠慢な昼寝にふけっていった。……














 
25: ◆SIXTEEN.p2 :2009/06/23(火) 00:10:48.13 ID:d8AmUb9i0
目をさましたときには太陽がほとんど沈んでいた。

いくら秋とはいえせっかち過ぎる。今日もまた、つまらないまま終わった。

なにかをしてやりたいとはいつも思う。刺激が欲しいのは相変わらずだ。


だが、それより先に面倒くささ、恐れが覆いかぶさる。



いまのデレには、外出でさえけっこうな刺激だが、秋風に目を瞑ることも出来やしない。

カーテンはまだしも、窓すらろくに開けない。それほどまでに重症だった。



廊下で物音がした。鉄板でペニサスなので耳も立てないが、ときどき不自由なく生きる妹を妬ましく思う。




しばらく部屋に居たらしいが、妹はどうやらいつの間にか居間に向かったようだ。

電話で屈託無く話している声が聞こえた。黄色い、ミーハーじみた声で、

あまり気分のよいものではなかったけれど、内容が気になった。



デレは忍び足で階段の踊り場に立った。

受話器を耳に当てて、小刻みに背中を揺らしている妹の後ろ姿がはっきり見える。




「……でね、そのギコって人はアネキと同じ学年の人なんだけど……」



話題は意外なものだった。近寄って、じかに確認すると感情が浮き立つのがわかる。

デレは目を見開いてペニサスの背中を凝視した。妹は姉の視線にまったく気がついていない。



「……ネ? ほんと、ありえないよね……どこまで盛ってんだか」








 26: ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:13:07.56 ID:d8AmUb9i0

妹の学年でも、ギコは悪い意味で有名らしかった。

そんな男と愛し合っていたというのは、いま考えると信じがたい気もする。

向こうがデレを愛していたかは定かではないのだが。



そして、ペニサスの侮蔑した発言をきいて、デレはすこしムっとしたのだった。

特別な感情を抱いているギコ。ギコを、どうせ、ペニサスはたいして知らないくせに、


よくも知ったような口をきけたものだ。低俗なもので穢さないでほしい。



「……でさ、トソンが見たらしいんだけど、なんかね………」



「!?」



そこからの話は、デレにとって衝撃的なものだった。


あの、海を見渡せる崖……クーが誕生日に招待してくれた秘密の場所で、

ギコは夜な夜なオンナと密会しては楽しんでいるというのだ。



たしかにギコには、例の崖のことを教えた。

いつか二人で見に行こうねという言葉と共に。



その願いが叶うことはなかった。






   



 
28 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:16:22.36 ID:d8AmUb9i0
デレはとっさに顔を伏せた。頬が変にこわばるのを感じる。次第々々に力が抜けていく。

そのまま立ち尽くしていては、倒れた拍子に階段を転げ落ちそうだった。



まったく背後に気をかけないペニサスを尻目に、デレは自室へと引き返した。

表情がひきつっていった。変貌していくさまが恐ろしいので、こわごわと全体を摩ってみた。



そのときはじめて気がついたのは、デレは、異様なまでにやせ細っていたということだった。


頬にはハリも若さも感じられない。粉が吹いているような感触がするし、骨の硬さが掌に伝わってくる。

眉は手入れなんてしていないものだから、伸びに伸びて節操がない。



つくづく女の魅力に欠けた。デレは自嘲しようにもする気力がない。



ベッドに崩れこむと、改めてギコの話のショックの重さを思い知らされる。

どうしてあの秘密の場所を教えてしまったのだろうか。


そしてあの男は、私を裏切ったクセしてどうしてその話だけは覚えているんだろう。

私を見限ったなら、私に関することはすべて忘れてよ。

どうして都合のいいことばかり利用するの。





恥知らずな男……恥知らずなギコ……そして愚かな私……愚かなデレ……。






はじめてニコチンを摂取したみたいに、頭がじぃんと痺れた。

涙がとめどなくあふれてくる。たちまちシーツは水気を帯びた。

もう部屋の掃除もシーツの交換もしていないものだから、不衛生どころではない。

   



 

30 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:18:55.97 ID:d8AmUb9i0
視界が霞んでいく。涙もかまわずデレは枕で顔を覆った。頬に塗れた感触がする。

それでもかまわず、デレはギコのことを蔑んでは悔しがった。




殺してやりたい。本気で殺してやりたい。

いつまでもへらへらと笑っている、ギコというティーンを地獄に送りつけてやりたい。



それは叶わぬ夢だろうか? デレはいつだって、この疑問の答えを探し続けていた。

決して無理な話ではないことぐらいわかる。

刃物だろうが何だろうが、ともあれ日常のさまざまに、殺人を可能にする道具は転がっている。


問題は行為だけではないのだ、それまでの過程がほしい。

恨み言をはきながらナイフを腹に突き刺したくらいでは、とうてい満足できやしない。



もっと、ローマンチックな感じがよろしい。

もっと、苦しめるような形がよろしい。

もっと、絶望を与えるような方法がよろしい。




もっと、後悔させるようなやり方が望ましい。





   



 31 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:21:09.40 ID:d8AmUb9i0
そう思ってあたりを見渡してみても、さて、一向に思い当たらない。

やり遂げる自信もない。しょせんは夢物語なのだろうか。

デレは、ここで恨みばかり燻らせながら、やがては発狂していく運命なのか。






ζ( ー *ζ「………。イヤだ」





そんな未来だけは避けたい。恥知らずな男には制裁を加えねばならない。

それも、どんな女よりも私がふさわしい。あのギコにどれほどの女が泣かされていようと、


決着をつけるのは私だ、そう私。もっとも苦しんだんに違いないんだから。







ζ(゚ー゚*ζ「見せ付けてやりたい……あの男に、私の人生を……」








 デレは、決意、した。













 

35 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:23:28.65 ID:d8AmUb9i0
……1995年10月30日。決意したとなれば、はやいものだった。

その早朝、デレは珍しく早起きをした。




やおらカーテンを開けると、降り注ぐ陽光が眩しくて目が開けきれない。

風を確かめて、涼しい秋を堪能した。季節を身に浴びた。

なんども深呼吸をしてから、デレはベッドに腰掛けた。

やさしい風がカーテンを撫でて、たなびかせる。



あっという間に部屋中が換気された。いつもの陰気な雰囲気は雲散し、


清々しい空気が立ち込めていった。デレは微笑んだ。



デレは、クーからプレゼントされたハンカチをそっと枕元に置いた。

スオード・リリー……剣百合の刺繍がされているので、デレは一種の暗号として残すつもりだった。








剣百合の持つ言葉、 「武装完了」 を意味したかった。







 



 36 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:25:36.96 ID:d8AmUb9i0
キッチンに向かい、ごみ箱を漁って目当てのものを掘り出した。

上物が見つかった。2リットルのペットボトルだ。容量も充分なので、

さっそく蛇口を捻って容器を洗い出した。


ラベルを見る限り、お茶の入っていたものらしい。案の定、一回ゆすいだだけで綺麗になった。

ただ、水が少しでも入っていると何が起こるか分からない。なるべくペットボトルには

真新しいふうになってもらいたい。逆さに振って底をなんども叩いた後、ベランダに立てかけておいた。





しばらくベッドに突っ伏して時間をつぶし、頃合いをはかってペットボトルを取り出すと、

水もスッカリ見えないしで、なかなかの出来栄えだった。




次に、灯油をそっとそれに注ぎ込む。少しでもしくじれば、部屋全体が灯油の臭いで充満する。

デレとしては別に構わないことだったが、それでは今後……困る。ので、細心の注意を払った。



しずくはいくらかカーペットの上に落ちたが、そこまでの被害には至らなかった。

この臭いだって、窓を開けて換気すればすぐに消えさるはずだ。

しっかりキャップを閉めてからデイパックに詰め込んだ。


旅行用の大きな型だから、入れるときに苦労するということはなかった。





旅行……ギコと付き合っていた、愛し合っていたと勘違いしていた頃は、

このデイパックを見ては「いずれどこかに旅行するのかな」などと妄想に耽っていたものだった。

新婚旅行!? なんて単語が脳裏に浮かんでは、キャアキャアと心の中で騒いだ。

いまではそのころの自分が鬱陶しい。




旅行……そうね、旅行なのかしら。だったら、もっと生活用品を詰めなくっちゃ?



       



 
40: ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:28:30.53 ID:d8AmUb9i0
しかしその必要はない。旅への道具はこれ一つでこと足りる。

キャンディーを忍ばせたからといって、甘酸っぱい気分にはなれない。



甘酸っぱい……




√甘酸っぱい夏が過ぎてまた、一人ぼっち。コレカラ、サムイキセツネ





そんなフレーズが思い浮かんだ、デレはこれが無性に気に入って、

それを自作のメロディーに乗せて軽く歌い出した。

気分も高まって、未練など忘れてしまいそうだった。




支度もすぎたので、部屋を片付けることにした。

あふれんばかりのゴミを袋に詰めて洗濯部屋に押し込んで、丁寧なベッドメイキングも行う。

掃除機をかけ、散らばっていた本を整理し、さいごに窓を開けて、空気を入れ替える。

秋の冷たい風がたちまち汚い空気を追いやった。涼しい。とくに枕が冷やされて

抱き心地がたまらない。朝も換気をしたけれど、掃除のあとでは心地よさが違う。




今日は父親が出張だし、妹は相変わらずデレに関心がない。

いま此処を出て行っても、騒がれるのは少なくとも明日以降だろう。



さようなら。さようなら。



最後に整えられた部屋を一瞥すると、デレは扉を閉めた。


布団の上に残されたハンカチ。スオードリリーの刺繍を目に焼けつけながら。





 
43: ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:31:35.47 ID:d8AmUb9i0

・・・



ζ(゚ー゚*ζ「寒いなあ」



崖までくると、さすがに風を無視しきれなくなる。

鏡で自分の顔を確認すると、全体が赤くて驚いたくらいだ。


鼻周辺などは子供のような無邪気さすら漂っている。



すでに空は暗闇に染まりきって、星もうっすらと光を放っている。

デレは自分の誕生日に、クーにつれてもらった崖にきて、すでに二時間が経過していた。

車の通りは少ないので不審に思われたことはないだろう。



茂みにポツンと建っている、臭気のひどい簡易トイレで、じっと外を眺めていた。


波しぶきのひしゃげる音が聞こえてくる。せり立った崖の危険な様子を、何度も訴えかけているのかも知れない。





しかし、それでも、狙いはただ一つだった。





じぃっとその崖を観察しているのは、ギコという男のために他ならない。


今日の用意もそうだし、きっと自分の人生もギコという男のためにあるのだろう。



息をひそめながら、ずっと、ずっと、ギコがくるのを待っていた。

ペニサスの電話の内容どおりなら……今日きたって、おかしくない。



    




 
45: ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:34:47.47 ID:d8AmUb9i0
腕時計もはめていないし、こんな辺鄙な場所は時刻も知らせてくれない。


夜空の様子から推察するしかないが、おそらく二十時、二十一時ほどであろうか、

デレの目がしょぼしょぼとしだしたころ、それは音をたててやってきた。



バイクだった、赤のあざやかなバリオスは、若い男が運転していた。

その逞しい腰にしがみついている女は大体、デレと同い年くらいだろうか。



バリオスはカーブする道路のだいたい頂点のあたりに停車し、エンジンを一通り吹かした。


崖の際にとどまる赤色のバイクは、とても絵になっていた。

星空も季節も、波の音もがその光景に花を添えていた。

デレが食い入るようにそのドライバーを見つめる。

その男は、まぎれもなくギコ本人であった。隣のは新しい女だろうか。

デレの心の炎がいきなり強くなった。バックドラフトでもしたかのように、周りを燃やしつくす。




ギコは女をエスコートするように道路に立たせると、さりげない動作で肩に腕をまわした。

二人して自然を眺めていた。物々しい波飛沫はそこからでは見えないので、夜空でも見ているのだろう。

デレはその二人を眺めていた。トイレの窓からでは、曇りガラスのフィルターがうっとうしい。

しずかにデレが外に出たそのときには、ギコと女は崖下への階段を下りていった。





ζ(゚ー゚*ζ「………」






あの階段の位置は覚えている。クーと一緒に向かったのだから。



やはり忍び足で、デレもあとに続いた。



 
49 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:38:44.50 ID:d8AmUb9i0
階段の一段目に足をかけたところから、二人の姿が目に入った。

月明かりでかろうじてみえるくらいだが、抱き合っているくらいは判別できる。

デレの瞳から光が消えた。もはや気配を消して歩くことなどどうでもよくなっていく。




階段をおりきって、靴が草を踏む。シャリ、というその音で、若い二人に振りかえられた。



崖の下にある、小さな親子崖でその罵声は響いた。





(;゚Д゚)「だッ誰だ、テメェ……」




懐かしい声色だった。低音の、唸るような喋り方だ。

デレの心はたちまち破裂しそうになった。

告白する前のような、心臓を貫くピンクいろの衝撃だ。

身体がグラリとかしいだ。この崖には柵が備え付けていないので、場所によっては危険である。

そんな、不安定な足場での会話だった。




ζ(゚ー゚*ζ「こんにちわ、ギコさん」



(;゚Д゚)「えっ……?」



さすがにその一声で、誰だか分ったらしい。

背後の女も合わせてうろたえているうち、デレは素っ頓狂な声で、




ζ(゚ー゚*ζ「こんにちわァ! ギコさん!」



もう一度くり返すのだった。



50 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:41:43.93 ID:d8AmUb9i0
(;゚Д゚)「な……何しにきたんだよテメぇ」



唸るような言い方だったが、明らかに怯えが隠れていた。

とつぜんのデレの出現と物言いに、狂気めいたものを感じ取ったらしかった。




ζ(゚ー゚*ζ「いやぁ。久し振りに会うべきかなぁ……て」



(;゚Д゚)「い、いらねーよ……」



ζ(^ー^*ζ「そんなこと言わないでよぉ、せっかく会いにきたんだし」




甘ったるい声が暗闇に溶けた。向いの二人はとっくに事の重大さを理解している。

目の前の女は、狂気を爛々とさせて話しかけてくる。夜のためよく見えないが、

その女は、鼻歌をうたいながらおろしたデイパックを弄っているのだ。



ζ(゚ー゚*ζ「ねえギコくん」



何かを取り出しながら、デレは虚空に話しかけるようにいった。




ζ(゚ー゚*ζ「わたし、やっぱりあなたが好きなんだよね」



(;゚Д゚)「な……なんだよそれ?」



デレの手にしているそれは、月光を反射して鈍く光った。

ギコはとっさに刃物かと思ったが、そうではないらしい。


よく凝らしてみると、それはサイズの大きいペットボトルだった



 
53: ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:43:46.00 ID:d8AmUb9i0

ζ(゚ー゚*ζ「でも……あなたはどうやら、私のことなんか、どうでもいいらしい」



デレはペットボトルを見つめながら、暗いトーンで語りかけてくる。



ζ(゚ー゚*ζ「ほかの女とここに来ているのが、いい証拠だもんね……」



(;゚Д゚)「それは、その」




ζ(゚ー゚*ζ「ここはクーちゃんが教えてくれた秘密の場所なんだけど、

      他人に教えてもいいかなって思ったのはギコくんがはじめてだったんだ」





ζ(゚ー゚*ζ「でも、裏切られて、どう謝ればいいのか……」






ギコの背後に隠れていた女が、いきなり脱兎の如く駈け出した。

直感

で死の危険を覚えたようだ。手早く階段を上がっていくと、

バイクを見捨てて一人、夜道を走りだした。



(;゚Д゚)「あっおい!」




ζ(゚ー゚*ζ「また悪い女に引っかかったみたいだね」

    



54 : ◆SIXTEEN.p2 :2009/06/23(火) 00:46:24.61 ID:d8AmUb9i0

(;゚Д゚)「……うるせぇ」



ζ(゚ー゚*ζ「具合は私よりどうだった? よかった? 気持ちよかった?」



(#゚Д゚)「うるせえ!!」



怒鳴り声が響き渡った。崖を通して反響してくる。


だが、それも次第に波の音にかき消された。

静寂は訪れないが、沈黙はたやすく訪れた。



(#゚Д゚)「あんなんだテメェは!? うっとうしいんだよ!」



ζ(゚ー゚*ζ「………」




ふたたび沈黙。ギコもこれ以上の言葉が思い続かないらしい。

多少なりとも、自分の非は理解しているようだった。



ζ(゚ー゚*ζ「私ね……」



(,,゚Д゚)「………」




ζ(゚ー゚*ζ「気がつけば、自分の命なんかより、あなたのことが大事だった。

      でも、あなたは私のことなんかどうでもいい。

      ……こういうときって、どうすればいいかなぁ?

      ねぇ? ギコ君ならどうするの?」



1995年のこのころでは、ストーカーという言葉も概念も世間には定着していなかったが、


仮に、

ギコがそれを知っていたら、デレをそう呼んで罵倒していたに違いない。

目の前の女はギコの常識を超えていた。いままで、こんな後腐れなど味わっていなかったのだ。



 
56 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:49:08.66 ID:d8AmUb9i0
(;゚Д゚)「落ち着け……とにかく、落ち着k」



しかし、遮るような恫喝が、






ζ(゚ー゚#ζ「私はあなたに見てもらいたい!!」





ζ(゚∀゚#ζ「あなたの人生に私の存在を張り付けたいの!!!」








ζ(;∀;#ζ「 あなたの網膜にッ!! あなたの脳みそに ッ ! !



       私 を 焼 き 付 け て や り た い ! ! ! ! ! 」







醜悪な形相ですべてを吐露した。


引きこもっていたときからの憎悪、愛情が一気に溢れ出した。

アドレナリンが躊躇なく駆け巡る。今なら何だってやれる。





デレは持っていたペットボトルをあけ、

中に入れていた灯油を、己の身体に、 一気に浴びせた。




      



 
58 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:52:03.04 ID:d8AmUb9i0

(;゚Д゚)「ぁあ……ッ!」



ギコは膝から崩れ落ちた。デレの手に握られたライターが、今後の惨劇を予想させた。





ζ(;ー;*ζ「焼け死ね……」






着火した。

炎があっという間にデレの身体を包みこんだ。

人間らしかった皮膚も、すぐに黒く包みあげられていく。

それでもなお、デレは揺らすようにして歩いた。ギコの方へ。

おぞましい断末魔が波音と混じり、奇怪なワンダランドは聴力も支配する。




「抱きしめて……あつい……あ……アッ……アッ……」



声量は見る間に萎んでいく。ギコはやっとの思いで立ち上がると、

アワーワと奇声をあげて階段の方へ仰け反った。

デレの動きはそれに対応できず、ゆらゆらと直進し続ける。




「アッ……アッ……。…………ぁ……」



男女の区別もつかないほどに焼け尽されたその身体は、崖先に進んでも、

ためらいなく足を動かした。もはや動いているのが奇跡な程だったが、

そんな彼女の行いも、今では誰も評価しない。






デレはそのまま、意識なく崖から落下した。



         



 
62 : ◆SIXTEEN.p2:2009/06/23(火) 00:54:43.64 ID:d8AmUb9i0



海面に叩きつけられたその炭は、無残に四肢を散らしながら、波によって崖に叩きつけられた。



デレの肉体は完全に崩れ去った。

散り散りになった黒いそれらは、やがては海の一部となった。




内藤たちはそんなデレの存在を、十五年経っても探し続けているが、

もとより希望などなかったのだ。







夜が明けて、太陽が地平線から顔を覗かせた。








しかし、デレの肉体が日光に浴びることは、一度もなかったのである。









                       (Fall Out ~Theme of "Dear Friends"~ 終)






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