長岡速報

 
 
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ジョルジュ

Author:ジョルジュ
心母少女最終話更新
完結おめでとうございます。
08/03

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( ^ω^)と無人の城のようです 二話 

149 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:15:57.91 ID:bLG+B6IJ0
第二話 ― 白い朝に再会、メイドと鏡と遅れた混乱




ああ、顔も知らない父さん、母さん。
僕は煮込んだりとかそういう感じでアレコレされて食べられてしまうのでしょうか。

ああ、顔も知らない弟よ、妹よ。
僕はあなたがたの声すら思い出せないままで死んでしまうのでしょうか。

ああ、顔も知らない恋人…は果たして、僕にいたのでしょうか。
故郷に帰って暖かいお布団で眠りたい。それがどこなのかも忘れてしまったけれど。

あんな城、次生まれ変わったらもう絶対行かないお。
僕はそう堅く、胸に誓ったのだった。おしまい。


/ ,' 3「諦めてはいかんぞ」




154 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:19:21.12 ID:bLG+B6IJ0
うは?おじいたん何してんの?


/ ,' 3「おじいたんではない、師匠と呼べ。
それより聞け小童よ、お前はこんな志半ばでポックリと逝ってしまって良いのかと」

そりゃ嫌に決まってるお。だけど腰抜けちゃったし、逃げたりとかムリだったもんお。
きっと僕がこうしてる間にも、もっともっと怖くてオワタな展開が続いてるんだお。

/ ,' 3「諦めてはいかん。要はネバギバやね。諦めてはいかんのよ」

ええー。ネギトロも何も僕ただの人間ですお。
だって何か、こう、あの男の人とか。それっぽい感じだったじゃんお。

/ ,' 3「あらあら…うふふ…」

あ、ああ!待って師匠、遠ざかって行かないで!
どこに行くんですかお!僕を一人にしないで下さいお!

……ああ、めのまえがまっしろに―――

 
 


156:◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:23:40.08 ID:bLG+B6IJ0
************




ξ゚⊿゚)ξ「…あ、起き」

(;^ω^)「おじいた――――――――――んン!!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブフウウゥ――――――――――ッ!!!!」

ブーンが身を起こして叫ぶのと紅茶の虹が架かるのとは、ほぼ同時だった。
赤茶色の虹はブーンの顔面へと橋渡しされ、おじいたんの幻影は見事に消し飛ぶ。
それと同時に何かとても大事なものが吹き飛んだような気がしたが、虹の橋を見ているとどうでも良くなった。

不思議と、はっきり目覚めた瞬間のブーンはとても爽やかな気分だった。
自分が記憶喪失である事実すら忘れ、見知らぬ女性の噴出した紅茶の香りに包まれる。
その時女性に抱いた感情はどこか甘酸っぱかった。ダージリンですね。わかります。


 
161 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:26:45.58 ID:bLG+B6IJ0
( ^ω^)「お……おっお……、あまずっぺ……フヒ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ひッ!!」

自分の両手を見つめ、笑い声を漏らしつつダージリンの余韻に浸るブーン。
目の前の椅子に腰掛けているメイド姿の女性が、おぞましいものを見るように小さく震え出す。

( ^ω^)「ところで、貴女は―――」

首だけを回転させ、笑顔で女性へと声を掛ける。
その瞬間、女性は何かの線がはち切れたように椅子から立ち上がり、数歩退いた。

ξ;゚⊿゚)ξ「イヤあああああ!!ハイン様!ハイン様ー!!」


169 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:29:39.50 ID:bLG+B6IJ0
金切り声でそう叫ぶや否や、部屋の脇にある扉を蹴飛ばし、ティーカップを手にしたまま逃げる様に去ってしまった。
それにしても可愛らしい声だとブーンはしみじみ考える。金切り声と表現するよりは雀の囀りである、と。

(*^ω^)「誰だか知らないけどおちゃめさんだお…んもう」

ゴシゴシと目の周りを服の袖で拭き取ると、ブーンは爽やか気分のまま現状確認を始める。

今の自分はやたらと軋むベッドに寝かされており、すぐ隣の小窓から淡い光が差し込んでいる。
小窓から外を覗くと、上り始めた太陽と色の黒い森、そして石畳が見下ろせる。ここはどこかの上階らしい。
今いる部屋自体は少々小さい。扉は重そうな鉄製のもので(女性が蹴飛ばせていたが)、机や椅子、ベッドは全て木製だ。
というよりは、その机と椅子とベッド以外には家具が見当たらないのである。


173 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:32:07.06 ID:bLG+B6IJ0
( ^ω^)(…しかし僕、昨日お爺さんと別れてからどうしたんだったかお?)

頭上にクエスチョンマークを浮べ、ふとブーンは考える。
さっきの女性が呼んだ”ハイン”という名前にどこか聞き覚えがあるが、顔を思い出せはしなかった。
よし、とその名前から思考を切り離す。自分は記憶喪失であるという事を再度確認し、ブーンは伸びをする。


もしかしたら優しい旅人さんとか、お爺さんが言っていたふもとの住人さんが助けてくれたのかもしれない。
お爺さんと話し終えて歩き出したあたりで急に記憶が途切れているので、経緯は良く分からないが。
妙にお腹が空いているので、多分行き倒れか何かだろうとブーンは自己完結した。
状況関係無くポジティブであれる事は実に好ましい事である。


178 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:35:15.13 ID:bLG+B6IJ0
ふと、先程蹴り飛ばされていた扉が重い音を立てた。
ブーンが目をやると、さっきの女性が金色のツインテールを揺らしながらこちらを見ている。
警戒されているのか眉間に皺を寄せており、微塵も友好的なオーラを受け取ることが出来ない。


(;^ω^)「……ええと、こんにちはーですお」

ξ゚⊿゚)ξ「……」


こんにちは。しまった色んな意味で失敗した、とブーンは直感する。
女性は何かを疑るように目を細めると、ベッドから身を起こしたブーンへ向かい何かを放り投げた。
「お、お!」と声を上げ、その何かを落とさないようにキャッチすると、ブーンはそれが紐で結ばれた衣類である事に気づく。


183 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:38:50.74 ID:bLG+B6IJ0
ξ゚⊿゚)ξ「大浴場はここ出てずっと左。お風呂入ったら一階の広間に来て、ハイン様がお呼びよ。……顔、ごめ……なさい」

淡々と述べ、謝罪の部分は幾分か小さな声で言う。
状況が読めずブーンが呆けた顔で女性を見つめていると、急に女性は頬を紅潮させた。

ξ*゚⊿゚)ξ「っ、勘違いしないでよね!ご命令なのよ、私から持って来てあげた訳じゃないんだから!
……あっ、ああでも顔の事はちゃんと、その……あ、謝る、から……あー、もうっ!!」

女性は行き場無さげに両手を右往左往、一気に一人で喋くると、再び鉄扉を蹴飛ばして駆けていった。
鉄扉が哀愁を放ち、未だに音を立てて揺れている。ブーンは扉と手元の衣類に繰り返し目配せする。

ブーンの呆けた顔が、ふにゃりと惚けた顔になる。

読みは同じでも、その表情は相当に違うものだ。
女性が駆けて行く音が、小さく遠ざかっていった。


188 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:42:24.78 ID:bLG+B6IJ0
( ^ω^)(それにしても大きなお屋敷だお、さっきの女の子はメイドさんか何かなのかお?
それにハインさんて名前、なんとなく聞き覚えがあるような気がするお。ここのご主人さんあたりかおね)


適当な予想を浮べながら、ブーンは着替えを持って長い長い廊下を一人歩いていた。
いくつもの鉄扉が並んでいるが、どの部屋からも談笑する声は一切聞こえない。
早朝だから当たり前か、そう考えながらブーンは静まり返った廊下を見回して歩く。

( ^ω^)(これからどうしたもんか、僕がここに来るまでの経緯が本当に思い出せないお。
どう挨拶すれば良いかお…、初めまして?お邪魔してしまったみたいで申し訳ありません?うーん、何か違うお)

自分からここへ来た事はまず無いだろうが、拾われたにしても説明の仕様がない。
とにかく深く考えるより、そのハインさんとやらの人柄で判断しようとブーンは決めた。


192 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:46:05.98 ID:bLG+B6IJ0
その内廊下の果てへ到着し、石鹸の香りが漂って来た。
そこだけは鉄扉ではなく、女性と男性のシルエットが描かれた幕の下げられている入り口が二つ並んでいた。

ブーンは男性のシルエットが描かれた紺の幕を開き、中へと入る。


まず、ステンドグラスで上手く中を見えないようにした硝子の扉が目を引いた。浴場へ繋がっているのだろう。
後はどこかで目にした事のあるような、着替えを入れるための籠が無数に置かれた棚がずらりと並んでいる。

脱衣所だ。

ブーンはその棚の内の一つを拝借すると、上着のジャケットとシャツを一気に脱ぎ、籠へ投げ入れた。
上着のポケットに重みを感じたが、後で見れば良いかとブーンはそれを入れたままにしておく。

ズボンのベルトを外し終えると、棚の中に小さな手鏡が置かれている事に気付く。
ブーンはそれを手に取り、ふーむ、と一言呟くと、目を閉じた。

 
197 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:48:48.84 ID:bLG+B6IJ0
そういえば、自分の顔を知らない。

やはり見た後で落胆するのだろうか。しかしここで見ない訳にも、とブーンは目を閉じたまま手鏡をこちらへ向ける。
決心したように瞼を開くと、どこか頭の弱そうな丸い顔がこちらを見つめていた。
ブーンは暫くその顔と見つめ合うと、笑顔を作ってみたり、目を凝らしてみたりと表情をころころ変える。

ふむ、と短く切った音をブーンは呟く。

( ^ω^)「うん、うん。僕ってば、思ったよりマシな方なんじゃないかお」

一人頷くと、最後にもう一度だけ自分と目を合わせ、棚へ手鏡をそっと戻しておいた。
ズボンのチャックへ手を掛け、脱衣を続ける。石鹸の匂いが心地良い。

「……ぷふっ」

( ^ω^)「おっ?」

 
201 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:51:14.86 ID:bLG+B6IJ0
堪え切れずに漏れたような、息を噴出す笑い声がブーンの耳に入る。
浴槽へ向かおうとした足が思わず止まり、ブーンは辺りを見回す。


( ^ω^)(やっぱり誰かいたのかお…?)


脱衣所の棚に隠れて見えなかったのかもしれない、と棚と棚の間にある通路に入り込む。
冷たい床を裸足で歩いて行き、自分以外の人影を探すが、しかし未だ見ぬ住人の姿は無かった。

気のせいだと思うしかないか。
まだ鮮明に思い出せる小さな笑い声を頭の中で反芻しながら、ブーンは来た通路を戻って行った。

浴場の扉の前へ戻ると、一度ステンドグラスの前で立ち止まる。
ステンドグラスは青を貴重に、薄紫、水色、所々に散りばめられた黄色で、羽が生えた女性を模してある。
女性は赤子をその腕に抱きかかえ、愛おしそうに目を閉じて笑みを浮べていた。


綺麗だ。
そう素直に心の中で感想を述べてから、ブーンは扉を開き浴場へ入っていった。


206 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:54:20.73 ID:bLG+B6IJ0
「……もう行っちゃったかな?」


( ><)「ふー、びっくりしたんです!ご主人さまったら声出しちゃ駄目じゃないですか、なんです!」
(*‘ω‘ *)「声がデケエんだっぽ。またあの野郎が戻って来たらどうするつもりだっぽ」
(;><)「ご、ごめんなさいなんです…」

「ふふ、諭してくれたんだよね。ごめんね二人共、手伝ってくれてありがとう」

(*‘ω‘ *)「礼には及ばねえっぽ」
( ><)「ボクもあの人の様子が見たかったから、全然大丈夫なんです」

「いや、元気そうで良かったよ。昨日の騒動のせいで腰抜かしたままだったらどうしようかと思ってね」

(*‘ω‘ *)「……見たところ、あいつは昨日あったここでの記憶が抜け落ちてるっぽ」

「そうなの?」

(*‘ω‘ *)「どうも一時的なものみたいだっぽ。今に何かのショックで全て思い出す、心配しなくていいっぽ」

「へえ、ありがとう。……そっか、うん。それじゃ、今の内に僕達は部屋に戻ろうか」

(*‘ω‘ *)「おら、戻るっぽビロード」
( ><)「わかったんです!あ、ご主人さま!大鏡、久しぶりにお掃除したから今ならピカピカなんです!」

「本当かい?楽しみだなぁ……」



212 :◆TARUuxI8bk:2008/05/25(日) 23:57:12.26 ID:bLG+B6IJ0
大浴場の名の通り、そこは巨大すぎる程に巨大だった。

見回すが、ブーン以外には誰も入っていない。
ここまで来ると、よもや自分のためにこの階全体が貸切られているのではないかという不安すら感じる。

壁沿いに沢山並ぶ小さな鉄製の椅子(不思議な事に錆は全く見当たらない)の一つにブーンは腰掛けた。
着替えに挟まっていたタオルの一つを脇に置くと、ブーンは眼前の鏡の隣に取り付けられているレバーを引いた。
壁から重い水の音が響く。シャワーが一度震え、一気に湯水が噴出する。

(*^ω^)「おっひょおおお!」

初めてではない筈なのに、シャワーを浴びる感覚がどこか新鮮で、ブーンは妙な悲鳴を上げた。

この時代でのシャワーは井戸から汲まれた水を暖房機関で温めているだけで、細かな温度調節は出来ない。
熱々のシャワーで体を流し終えると、ブーンは石鹸を使い軽く顔を濯ぐ。
洗い終えてからダージリンの匂いが取れた事を確認し、シャワーを止めると、早足で浴槽へと向かった。



218 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:00:22.75 ID:H80sxW5B0
少しもったいぶって、ブーンは右足からゆっくりと浴槽へ浸かる。
おおおおお…と浴場に声を響かせ、全身を受け入れる湯の温もりを味わい始める。

(*^ω^)(早く行った方が良いのかもしれないけど、こんなにおっきいお風呂見せられたらたまらんおっおっ。
にしても金持ちにも程度ってものがあるお、こんな浴場持つ位なんだからきっとハインさんて凄い人なんだお。
僕の予想では髭のカールしたオジサマか、やたら悲しそうな目ぇしてる超白髪のオジイサマだお)


暫く意味の無い考えを巡らせ、ブーンはのんびりと浴場を見渡した。
大きな窓からは、先程部屋の小窓から見たものと同じ風景が広がっている。
先刻より太陽が上へ昇り、全体的に景色が白い。不気味だった黒い森がやんわりと照らされ、幻想的に見えてくる。

ややあって浴槽を出ると、再びさっきの椅子に座り、シャワーで一度体を流す。
タオルに石鹸を馴染ませ、腕から肩に掛けて体全体をくまなく洗い始めた。


223 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:06:06.40 ID:H80sxW5B0
( ^ω^)(……なんだろう。この感じ)


奇妙な、しかし気持ちのいい違和感がブーンに纏わり付く。
さっきシャワーを浴びた時もそうだったが、まるで生まれて初めて体を洗ったような爽快感があるのだ。
タオルが体を滑る感覚を身近なものとして感じられない、そう表現してもいいかもしれない。

( ^ω^)(気持ちいいけど、変な感じだお)

記憶を失った人間は皆こういう思いをしているのだろうかと疑問を抱きつつ、ブーンは再びタオルを持つ手を動かす。
せっかくだし、頭まで洗ったらもう一度だけお湯に浸かっていこう―――そう考えながら。



229 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:08:29.74 ID:H80sxW5B0
(*^ω^)「ふおー、すっきりさっぱりだお!」


ステンドグラスの扉を開けると、浴場から脱衣所へ湯気が侵入していく。
犬のように体を小刻みに震わせて水を撒くと、さっき着替えを置いた棚へと歩き出す。
相変わらず床は冷たい。大理石か何かだろうか、マーブルの光沢がいかにもな高級感を醸し出している。

棚の前へ辿り着くと、改めて着替えを手に取る。やけにふわふわとした生地のバスローブだった。
一旦それを棚へ戻し、バスローブと同じ位にふわふわしたタオルで乱雑に頭を拭く。
体全体の水気をしっかりと拭き取り、バスローブを再び手に取って袖を通していく。

ううむ実に有意義。

記憶喪失の人間がこんなにのんびりしちゃって良いのかな、まあいいや。


233 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:12:57.05 ID:H80sxW5B0
少し大きめのバスローブの袖を弄びながら、ブーンは紺の幕をめくって脱衣所を後にする。
目指すは一階、広間とやら。
一応着替えを入れた籠は持参して来たが、妙に手に余り、籠を右手左手に持ち替えて廊下を歩いて行く。


さっきまで自分が居た部屋の前まで来ると、ブーンはその部屋のすぐ隣に階段があった事に気付いた。
成る程、僕が居た部屋は最後尾だったわけか、と廊下の長さに納得する。

螺旋状になっている階段を見下ろす。ある程度からは黒く影が差しており、一階毎に相当の長さがありそうだ。
大浴場のあった階が何階だったのかが分からないので、今から何階下るか数えておこうと意気込んで階段を降りて行った。
浴場で拝借した客人用の靴が、やけに音高く響く。


240 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:16:06.68 ID:H80sxW5B0
一、 

柵は尖り、細工のされた獅子の飾りが間隔を置いて取り付けられていた。

二、

階層毎に一つしか窓が無いため、階段へと入り込んだ途端に薄暗くなったような印象を覚える。
窓は廊下に付けられたものよりは大きめだが、長い階段を照らすには小さすぎる。

三―――。

ようやくそれ以上階段が無い地点が見えてくる。踊り場にあたる場所には大きな鏡が設置されていた。


( ^ω^)「よん!」

思わず声に出してしまい、少し気恥ずかしくなる。ここが一階だろう。
どうやらブーンが居る棟は四階まであるらしい。小窓の景色を思い出し、あの高さならそれ位なんだろうな、と考える。


244 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:18:44.34 ID:H80sxW5B0
階段を降り切ると、廊下は三叉に分かれていた。


ブーンの立ち位置から見て丁度右、左、そして正面の三つ。
どうも正面からは、微かにだが数人の話し声が聞こえて来る。

( ^ω^)(お……、そういえばあの女の子、広間の場所までは教えてくれなかったお)

ここまで来てそれに気付き、ブーンは首を傾げた。

( ^ω^)(広間っていう位だし、人が集まってそうなイメージだお……とりあえず声のする方に行くかお?
……うん、そうするお。間違ってるみたいだったら、そこにいる人たちに広間の場所を聞けばいいお)

即決。
二度目だが状況関係無くポジティブであれる事は実に、実に好ましい事である。


249 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:21:25.62 ID:H80sxW5B0
正面へ向かい歩き出すと、話し声は少しづつ大きくなる。時々笑い声が混じり、和気藹々とした様子だ。
ブーンはその楽しげな会話に耳を傾けるよう意識し、廊下の奥に見える大きめの鉄扉を目指した。



「―――そ、そそそれはアレか!?乙女の秘密って奴なのかああああああっ!?」
「だーっ、一々煩いのよ!そうよ秘密なの、だから静かにして!」
「はははは、可愛いとこあるじゃねーか!どーれ、この俺が直々に聞いてきてやるよっ」
「は、ハイン様ダメ!それは本当にダメぇぇ!!」



(*^ω^)「……」


253 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:24:20.62 ID:H80sxW5B0
思わず頬が緩む。
このノリ、そして乙女の秘密という甘ったるいワードからして、ブーンは恋話だと確信した。
しかし秘密にしては声が大きい。鉄扉を一枚挟んでいるのに、十分に声が届いてくる。
早朝である事に油断しているのだろうか、と考えると今以上に頬が緩んだ。

どうやら、さっきの女性の声が混じっているようだ。
更に”ハイン様”と呼ばれたと思われる人間の声は、少し中性的ではあるが、決して低くはない。
どうもブーンが想像していた様な壮年の男性や、悲しい目をした老人ではなさそうである。

この様子だと、広間は多分自分が向かっている部屋で正解だったのだろう。
面倒を逃れた事に少し気分を良くしていると、ふと鉄扉の向こうから届いていた話し声が止む。


257 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:28:09.88 ID:H80sxW5B0
不意に扉が軋み、重い音を立てて開いた。
ブーンが扉に注目していると、中からはあの女性が現れ、様子を伺うようにして半開きの扉の外へ上半身を見せる。
女性はブーンに気付くと、ほんの一瞬驚いたように目を見開き、すぐにその目を細めて視線を逸らした。


ξ゚⊿゚)ξ「足音が聞こえると思ったらあんたか……。遅かったわね、ハイン様がお待ちよ」
( ^ω^)「あ……えへへ、ごめんなさいだお」

女性はメイド服の裾を翻すと、「ふん」と再びそっぽを向いてから扉を開ききって、ブーンを手招いた。
少し早足にブーンは廊下を進むと、女性は先に扉の中へ入ってしまう。

( ^ω^)(相変わらずつれないお)

だがそれがいい、と脳内で呟き、次いでブーンは扉の中へと入って行った。


261 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:30:44.62 ID:H80sxW5B0
聞いていた通り名の通り、中は広間だった。
大浴場もそうだったが、一々部屋が大きすぎて、つい都会へ来たばかりの田舎者のように見上げてしまう。
さっき大浴場の入り口で見かけたからだろうか、大きなステンドグラスに既視感を覚えた。

だだっ広い中にいくつかの段差と絨毯があるだけの空間、その中央に先程聞こえた話し声の主達がいた。
一人は鮮やかな赤い髪色をした女性、そしてさっきのツインテールの女性。
前者の女性はなぜか犬の耳と尻尾を付けており、こちらを期待するような眼差しで見つめている。

そしてその二人に挟まれるようにして、話し声の主の内、最後の一人が立っていた。

ブーンと目が合うと、ぱあっと表情を明るくして手を振る。
たかたかとこちらへ駆け出し、どちらかというと小さめの体躯が、黒いマントから覗いた。



266 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:33:30.54 ID:H80sxW5B0
从 ゚∀从「おおっ、起きたか少年!」




”―――よーお、起きたか少年?”




鉄よりも硬くて重い何かで出来たハンマーで、思いっ切り頭を殴り飛ばされる。
ブーンはその誰かが放った一言で、そんな感覚を覚えた。


271 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:36:50.20 ID:H80sxW5B0
(;^ω^)「お、も、い、だ、し、……ったああ―――――――ッ!!!」


ブーンが絶叫する。


(;^ω^)「メイドさんが言ってたハイン様ってそういう事かお!しかも何、ここあの城じゃないかお!
ステンドグラスとか絶対見た事あったもんお!何で今の今まで忘れてたんだお、僕のヴァカヴァカヴァカ!
んじゃ君はやっぱり、ハインってハインって……ハインリッヒ・トールヒルうううううぅ!!」

なだれ込む様に思い返される昨日の出来事に、ブーンが一気に声を上げた。
トールヒル、トールヒル、トールヒル…と、広間内にその声がこだまする。

眉間の皺を増やした金髪の女性を除いて、ブーンに視線を寄せていた二人は特に驚いた様子も無く、平然としている。


275 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:38:54.49 ID:H80sxW5B0
从 ゚∀从「んー、ここは……”フルネームかよ”?」
ノパ⊿゚)「違うぞハインっ、こういうノリは多分”長いんだよ”の一言だっ!」

ツッコミ談義を始める二人をよそに、ブーンは頭を抱え混乱する。
どういう事、どういう事?僕はなんで無事なままなんだお?煮込んで食べちゃわれてないんだお?
もしかして風呂に入らせて、体を綺麗にしてから食べるつもりだとか?

とにかく逃げなきゃ、早くここから逃げないと―――何となく、キケンが危ない、気がする!

ξ゚⊿゚)ξ「あ!」

脱兎の如く、両手を広げて駆け出すブーン。
手にした籠が床へ転がる。こちらに気付いたのか、声を上げる金髪の女性。

279 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:41:31.48 ID:H80sxW5B0
鉄扉から外へ出ると、大きめの窓を探す。
自分が知っている城の出口は、広間の扉だけ。
しかし、あのハインリッヒの隣を無事に駆け抜けられる自信はブーンには無い。
ならば一番単純な出口として、脱出口として考えられるのは、窓。

廊下に付いているものは、ほとんどブーンの頭程度の大きさの小さなものばかり。
どこか、どこかに窓は無かったか。螺旋階段前の分岐へ辿り着くと、ブーンは周囲を見渡す。

从 ゚∀从「うおーい!どこ行くんだよ、こら!」

背後からハインリッヒの声と、歩調の遅い足音が響いてくる。
ブーンの焦りが増し、頭の中の警報がかき鳴らされる。とにかくアレに捕まる前に逃げなければ。

その時ブーンの目に、螺旋階段の窓が目に入る。
他の窓よりは、多分自分が抜けられる程度には大きい。


283 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:43:57.02 ID:H80sxW5B0
ブーンは無我夢中に窓へと駆け寄る。

(;^ω^)(早く、早く、早く!)

少し転びそうになりながらも右手を窓枠へ掛け、ぐっと腕全体に力を入れて体を引き上げる。
次いで左手を持ち上げると、下を向いている窓の鍵を思い切り上へ向けた。
鍵が外れた事を確認し、窓を開ききる。外へ上半身を出すべく、右の足を窓へ掛けた。

从 ゚∀从「あ、てめ!そんな所から逃げるってのか、ちょっと俺予想外!
おい待て、待てったら……くそ、来いショボン!アレを捕まえろ!」

ハインリッヒの声を聞かないようにし、ただ脱出に集中していると、不意に雫が落ちるような涼やかな音が響いた。

雫が落ちる音―――とは言っても、それはハインリッヒの声を裂いてブーンの耳に入る程の大きさをしている。
違和感に、ブーンは窓に突っ込もうとしていた頭を無理やり後ろへ振り向かせた。


287 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:46:42.33 ID:H80sxW5B0
ブーンの目に、異形が映る。


少し感覚を空けた場所にある、踊り場の大きな鏡。
そこから自分へ向かって、歪曲しながら伸びる、腕。


(;^ω^)「……!!」

ただ絶句する。
腕はそれ自体が鏡のように周囲を映し、てらてらと光っていた。
それはブーンの片足を握ると、窓枠を掴むブーンの力を遥かに超える力量で、足を鏡の方へと引っ張った。

(;^ω^)「ヘキッ!!ムフォア!!セシヴォ……!!」

ブーンの体が窓から引き剥がされ、半宙吊りで階段へと落ちる。
狙っているのかいないのか、腕はブーンの体と段が確実に衝突する位置を通過して戻っていく。
悲鳴が聞こえなくなる頃、鏡の前へぽてっとブーンの体が置かれた。
遅れて、ハインリッヒが踊り場へ到達する。

 
292 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:50:39.21 ID:H80sxW5B0
「や、や。これで良かったのかな?」

踊り場に男性の声が響いた。
ブーンは薄れかけた意識を必死に繋ぎ止め、顔のみを上げて声の主を探す。

从;゚∀从「相変わらず加減ってモンを知らねぇのな、お前は……」

しかしハインリッヒは鏡へと視線を向け、その声に対する返事を放っている。
ブーンが鏡へ目をやると、鏡の中に映る男性の姿があった。

(´・ω・`)「急だったものだから少し雑なだけだよ、失敬な」

腕を組み、少し不満げに男性が言う。
ブーンは思わず踊り場を見回すが、やはり男性の姿は無い。
まるで鏡の中だけに男性が存在しているようだ、そう考えてしまう。

(´・ω・`)「で、僕はこれからどうすれば良いの」

从 ゚∀从「あー、うーん、どうしよ。もうちょっとそいつ捕まえといて。逃げちまう」

ハインが言うのと同時に、鏡の腕がブーンの足を握る力を強める。
駄目だ拘束される。咄嗟にブーンは喉の奥から、声を捻り出した。


297 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:52:54.34 ID:H80sxW5B0
(;^ω^)「った、助けて!」


(´・ω・`)「……?」

決死の思いでそう叫ぶ。
聞き入れては貰えないと昨日の思い出が囁くが、これから自分がどうされるかを考えると恐ろしかった。
ハインリッヒと鏡の中の男がきょとんとした顔でこちらを見る。少し怯んだが、ブーンは言葉を続けた。

(;^ω^)「煮込んで食われるのだけは、血を吸い尽くされるのだけは勘弁だお!!
この城の事なんて知らなかったんです!記憶喪失で寝場所が無くて、宿を借りようと思っただけなんです!
だから、だからお願い、だから…!」

だから殺さないで。そう言わんばかりに涙目で訴えるブーン。
その姿を見て、男とハインリッヒは顔を見合わせた。



すると突然、封を切り裂いたような大きな声で、顔を見合わせたまま二人は笑い出す。


301 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:54:39.44 ID:H80sxW5B0
从*゚∀从「あーっはははは!!! に、煮込んで食うってお前、あははっ、あはははっ!!」

(*´・ω・`)「ぷく、くくく…!昨日ハインが変な事吹き込んだから、でしょっ、ぶふぅっ!!」



(;^ω^)「……」

ぽかんと口を開けて、ブーンはただただ笑い転げる二人を凝視していた。

从 ゚∀从「あー、いや笑った笑った、ごめんなぁ。アレ嘘」

(;^ω^)「は、はい……?」



305 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 00:58:07.14 ID:H80sxW5B0
ひらひらと手を振り、至って軽い口調でハインリッヒが告げる。
突然すぎる一言にブーンは瞬きを繰り返し、目に溜まっていた涙が一筋垂れた。

(´・ω・`)「ハインが吸血鬼だとか、人間は住んでないとかの流れは一応本当だけどね。
人間を食うって話は、悪戯でここに来た人を追い出すための嘘なんだ。だから安心して良いよ」

从 ゚∀从「そーいうこった、逃げてくれるかと思ったんだけど腰抜かしちまうもんだからよ。
すまんかったな、いつも追い出す役は別の奴にやらせてるからさ。酔った勢いでつい張り切っちまって」

(´・ω・`)「いきなり”いちぬけた!”だもの、皆びっくりしてたんだから。
しかも肝心の人間さんが失神しちゃうし、ここから聞いててヒヤヒヤしたよ」

( ^ω^)「そ、それじゃえっと、化け物がどうのって話は…」
慌てて身を起こし、情けなくその場に座り込んでブーンが問う。


309 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 01:00:22.98 ID:H80sxW5B0
从 ゚∀从「ありゃ本当だ、俺含め皆化け物ばっかさ。こいつを見りゃ判るだろ?
まあ何、人間様に危害加えるような奴は住んじゃいねぇさ。住処の無い奴らばかりここで静かに暮らしてるだけだ。
……ほら、起こしてやるから手ぇ出せ。どうだ、俺友好的だろ」

言いながら、ハインリッヒがブーンに腕を差し出す。
ブーンは少し躊躇し、恐々その腕を取る。体躯に似合わない強い力で引き上げられ、その場に立ち直した。


从 ゚∀从「さ、まずは広間に戻ってくれ。お前に手伝って欲しい事があるんだ」

( ^ω^)「僕、に?」

ブーンは自らを指差して鸚鵡返しにした。
ただの人間に何を頼むつもりなのか、という意味合いでの鸚鵡返しだが、ハインリッヒは至極笑顔だった。
ブーンは昨日感じたものとどこか似た不安を感じる。


314 :◆TARUuxI8bk:2008/05/26(月) 01:02:28.44 ID:H80sxW5B0
(´・ω・`)「そう。君じゃなきゃ出来ないし、」

从 ゚∀从「お前が来たからこそ計画出来た事だ」


そう言うと、二人して邪な笑みを浮べる。
ハインリッヒの言うとおり彼らは友好的なのだろうがやはり怖いに越した事は無い、ブーンは心の中でそう呟いた。




― 第二話 了
 
 
 
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来るべき時が来た














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