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ジョルジュ

Author:ジョルジュ
心母少女最終話更新
完結おめでとうございます。
08/03

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川 ゚ -゚)クーたちは想像上の生物のようです 第二話 

81 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:39:07.92 ID:peSmYiXI0
第二話『ネガティブアンハッピー・出刃包丁エッヂ』

前話にてクーの存在と自らのより詳しい身体状況を調べることを決意したブーン。
しかし彼如き高校生に出来ることなどあまりにも少ない。
とりあえず父親のパソコンを無断使用して検索してみたりもしたが、
出てくる情報はすでに常識となっていることや、あまりに突飛なうわさ話ばかりである。

早々に飽きたブーンがマインスイーパに勤しんでいると、夕食を告げる母親の声が聞こえてきた。

日常が通過して、夜中になる。

ごく普通の高校生であるブーンが明日の予習などという真面目なことをするはずもなく、
夜中は大抵マンガを読んだりゲームをしたりして過ごす。
たまに宿題があればそれをこなすが、ほとんど適当である。

今日もいつも通りベッドの上でマンガを読んでいると、机の上の携帯電話が音を立てて震えた。

( ^ω^)「……おー」

呻くような声を出してブーンはのそのそと携帯を掴む。
メールが一件。開いてみて、ブーンの目は点になった。

『もしかして私のこと嫌いになった?』

( ^ω^)「……は?」



82 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:41:34.12 ID:peSmYiXI0
どうも病的なにおいのする文章である。
送信元を確認する。そこには登録名として『しぃ』と書かれていた。

( ^ω^)「……?」

しぃという名前をブーンは心の中で何度か反芻する。
しかし、何度繰り返してもその人物に関する記憶が出てこない。

だが、登録名が表示されていると言うことは間違いなくブーン自身が登録したということである。
彼は今時の高校生なので、そこそこ前から携帯を親から与えられている。
彼は引き籠もりではないので、そこそこの名前がアドレス帳に登録されている。

しかし、だからといって自分で登録した人物を完全に忘却してしまうだろうか。
購入当時は喜び勇んで周囲の人間にアドレスを聞きまくったが、もしやあの時か。

( ^ω^)「んー……ん……ううん……?」

数分考えてブーンは、とりあえず無視することにした。

知らぬ人間からの第一声が『私のこと嫌いになった?』である。
恐ろしい恐ろしい。関わらないに限る。

携帯を机に放り、再びブーンはマンガに没頭した。
しかしそれからすぐに眠気がやって来たため、大あくびと共に電気を消す。

眼を閉じると、彼はすぐに寝息を立て始めた。



83 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:43:55.62 ID:peSmYiXI0
ここで彼は夢を見始める。
前話で説明したとおり、夢を見ている間、彼の姿は現実世界から消滅する。
クーの話から考えてみる限り、彼は身体ごと夢の世界に立たされたということになるだろうか。

まぁ、とにかくブーンは今夢の中にいる。
目の前に古びた木製の扉があり、それ以外には何もない。
何もないといっても、彼方に地平線が見えるとかそういうことではなく、本当に何もないのだ。

だからブーンには目の前の扉を開く以外に選択肢はない。

この夢において、ブーンは自分を自分だと認識している。
すなわち、彼は彼の意思で行動することが出来るのだ。
とはいえ、覚醒するときは半強制的に目が覚めてしまう。
夢は基本的に主観的時間軸で動くから普段より時間を長く感じることは往々にしてあることだが、
それでもいつかは終わりが来るのだ。

しばらく立ち竦んだ後、ブーンは目の前の扉に手を掛ける。
押し開けると、軋んだ音とともに室内の空間が広がった。

教室の半分ぐらいの広さがある部屋の真ん中に、大きな机が設置されている。
それを囲むように椅子が並べてあり、今そこで一人の人物が座ってノートパソコンと対峙していた。

( ・∀・)「……おや」

彼はブーンに気付いて顔を上げた。
どこかで見た覚えのある顔だが、思い出せない。



85 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:46:04.56 ID:peSmYiXI0
( ・∀・)「初めてお会いしますね。ようこそ」

男は立ち上がり、気さくな様子でブーンに握手を求めた。

( ・∀・)「私の名前はモララーと言います。以後、お見知りおきを」

モララー……その名を聞いてようやくブーンは思い出す。
彼は、そうだ、特殊夢遊病患者としてテレビに出演していたのだった。
(馬鹿)丁寧な言葉遣いが印象に残っている。

しかし、彼が夢に出てくるとは思いもしなかった。
まあ、記憶に存在していると言うことはいつ夢に出てきてもおかしくないのだが、
所詮テレビ番組の登場人物の一人で、大して興味深くもなかった人間が出てきたのだ。
こんな経験は今まで一度も無い。
普段出てくるのは全くもって見覚えの無い人物か、或いは印象深い知り合いばかりである。

テレビ番組の出演者ならば、
お気に入りのグラビアアイドルなどが出てきてくれた方がよっぽど嬉しい。

などといった思考を織り交ぜた複雑な表情をブーンがしていると、
モララーはその顔をのぞき込みながら、愉快そうに一笑した。

( ・∀・)「どうも、あなたはまだ理解しきれていないようです」

( ^ω^)「どういうこと……ですかお?」

( ・∀・)「ここは、貴方の夢の世界では無いのですよ」


87 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:48:52.51 ID:peSmYiXI0
別に夢の中で今更何を言われてもブーンは驚かない。
だから、モララーにそう言われてもさほど動じなかった。
とりあえず訊いてみる。

( ^ω^)「僕の夢の世界じゃないって、どういうことですかお?」

( ・∀・)「集合的無意識という言葉をご存じですか?」

( ^ω^)「……?」

( ・∀・)「ユングという人が提唱した分析心理学の中心概念です。
      人間の無意識、その深層に存在すると言われている、
      個人の経験を超越した先天的な構造領域のことです。
      例えば、人が見る夢や空想には一定の典型的なイメージが存在すると言われますが、
      これには集合的無意識が関係していると言われています。
      ある種、人間の意識の基盤と言えるのかも知れません。
      もっとも、この基盤も民族や人種によって種類が異なると言われていますが」

( ^ω^)「……」

( ・∀・)「しかし、これは所詮ユング派の主張であって、
      実際に集合的無意識の存在が確かめられたわけではありません。
      絶対に無理ですからね、そんなことは。
      この手の学問には複数の派閥が存在していて、当然集合的無意識を、
      引いてはユング自体を否定する人も数多く存在します」

この時ブーンが思っていたことは、「あー、早く覚めないかな、この夢」ぐらいのことだった。
大体、睡眠とは安らぎを得られる場のはずである。
何故にその場所でこんなめんどくさい理論を教えられなければならないのか。



89 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:51:28.24 ID:peSmYiXI0
( ・∀・)「さて、そこでこの空間の話に戻るのですが」

まだ話すつもりかよ、といい加減ウンザリし始める。

( ・∀・)「集合的無意識は普遍的無意識とも呼ばれていますが、
      ユングによれば、これは誰しもが持っているものです。
      つまり、ここに人間同士の深い繋がりを見いだしたわけですね。
      そして先にも言ったように、この集合的無意識は夢や空想で見いだされます。
      すなわち、ここは集合的無意識です」

(;^ω^)「ほえ?」

自然とそんな声が出てしまった。何が言いたいのかさっぱり分からない上に、
どうも結論がこじつけすぎる気がする。気がするだけなので、上手く反論も出来ないのだが。

(;^ω^)「あの、すみません……もう少し、分かりやすく言ってもらえますかお?」

( ・∀・)「ううん、すなわち、ここは貴方の夢でもありますが、私の夢でもあるということですね。
      複数の夢が、この空間を通してリンクしているわけです」

( ^ω^)「……」

( ・∀・)「えっとですね……」

ここからまたモララーの長台詞が始まるのだが、口語体だと無駄に分量が増えるので、
以下三行で記述する。つまりこういうことだ。

・ここは夢を見ている人物が偶発的にやって来てしまう空間。
・今のところ、やって来るのは特殊夢遊病患者のみ。
・集合的無意識について長々と説明したが、実際そこまで関係無い。ペダンティックとかそういうの。



91 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:54:45.02 ID:peSmYiXI0
( ^ω^)「……」

とりあえず理解は出来たが、納得はしない。
何しろ全てが夢であるという可能性も捨てきれてはいないのだ。

( ・∀・)「ま、最初は信じられないかも知れませんが……きっとまた、
      ここにやって来ることになると思いますよ。私だってそうです。
      もう何度目も、偶然にここへ足を運ぶことになっています」

改めてブーンは内装を眺望してみる。
大仰な説明をされたが、どうもそれにはそぐわない貧相な部屋だ。

( ^ω^)「ここには、いろんな人が来るんですかお?」

( ・∀・)「そうですね。私がお目にかかった限りでは十数名……。
      もっとも、私だっていつもここに来れるわけではありませんから、
      実際にはもっとたくさんの人が出入りしているのでしょう」

( ^ω^)「みんな、ここで何をするんですかお?」

( ・∀・)「適当に喋ったりするような……ま、チャットルームみたいなものですよ」

( ^ω^)「チャット……」

( ・∀・)「ええ。見ず知らずの人たちが集まって適当に喋り、適当に引き上げていく。
      ここは、今のところそれだけのための空間ですね」

一呼吸置き、ですが、とモララーは続ける。

( ・∀・)「それだけのための空間だとは、思えませんけどね」



93 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:58:12.72 ID:peSmYiXI0
モララーは再び自分の座っていたパソコンの前に戻っていく。
ブーン一人取り残されてしまったわけだが、正直何もすることがない。
室内には机椅子壁ノートパソコン以外に何も無いのだ。

なのでモララーに寄っていく。

( ^ω^)「何してるんですかお?」

( ・∀・)「ああ、インターネットで遊んでるんですよ」

脳内にインターネットがあってたまるか。
そう思いながらも、とりあえず話を合わせておく。

( ^ω^)「インターネット……」

( ・∀・)「ええ。ただ、どうも私たちの世界に存在するウェブとは違うようなのですがね。
      こう、上手くは言い表せないのですが……違和感、というものが」

( ^ω^)「ふうん……」

ブーンはディスプレイを覗いてみる。
馴染みのインターネット・ブラウザにウェブサイトが表示されている。
内容を読んでみるとそれは、どうやら小説投稿サイトのようであった。

( ・∀・)「ここは、誰でも自分の書いた小説を発表できる場なんですよ。
      それぞれの作品をそれぞれが批評し合うことで自らを高めていく、というような感じですか」

( ^ω^)「モララーさんは、小説書くんですかお?」



94 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:00:16.48 ID:NAyDS5cH0
( ・∀・)「……まあ、少し目指しているものがありましてね。
      現実世界でも暇を見つけてはちょくちょく書いていたりするのですが、
      ここでも書いてみようかな、と。もっとも、ここにいつ来れるかが分からないので、
      完成できるかどうかも分からないのですけれどね」

( ^ω^)「……それって、少し危なくないですかお? なんというか、
      もしかしたら全部無駄な作業だったのかもしれないし……」

( ・∀・)「そうですね。来る度に書いて、そしてこのパソコンに保存するようにはしているのですが。
      でも、まあなんでしょう。せっかく与えられた場ですからね。活用しない手は無いかと」

なんとなくだが、ブーンは思う。
彼はほとんど確信しているのだ。目の前にあるインターネットが、この世界のものではないと。
全くの同一であれば、わざわざここで書く必要があるはずもない。

( ・∀・)「USBメモリでも持って来れればいいんですけどねえ」

からからと笑ったモララーは思い出したように「そういえば」と言った。

( ・∀・)「適当にここから出ないと、現実で大変なことになりますよ」

( ^ω^)「え、どういうことですかお?」

( ・∀・)「ここの時間は主観的では無く客観的に流れていきます。
      まあ、複数の人物が共在しているわけですから当然ですけれど……。
      だから、十数時間もここにいれば、ご家族などに心配されます」



96 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:03:29.53 ID:NAyDS5cH0
(;^ω^)「……夢から醒めないってことですかお?」

( ・∀・)「まあ、そうですね。そもそも今私たちが実際に睡眠しているかどうか……?
      それ自体、とても怪しいですよ。何しろ私たちの身体は現実世界から消えてますし、
      それに、この空間から目覚めたときの疲労度といったら、
      まるで一睡もしていないかのようなのです」

(;^ω^)「……そ、それってまずくないですかお?」

( ・∀・)「ええ、とても」

不意に「まっがーれ」という言葉が頭に浮かんだが、多分何の関係も無いだろう。
それにしても、モララーの飄々とした口ぶりが癪に障る。
ブーンの苛立ちを感じ取ったのか、モララーはまた軽く笑って首を横に振った。

( ・∀・)「ああ、大丈夫ですよ。この空間においてのみ、確実に覚醒する手段がありますから」

言いながらモララーは、この部屋の唯一の出入り口である扉を指差す。

( ・∀・)「あの扉から外へ出ればいいのです。それだけで、現実に戻ることが出来ます」

( ^ω^)「……ほんとですかお?」

( ・∀・)「なんなら、試してみれば良いと思いますよ。
      もっとも、一度出てしまうと次にいつ来れるか分かったものではありませんが」



97 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:05:39.58 ID:NAyDS5cH0
ブーンは振り返ってつくづく扉を眺めた。
何の変哲もない扉。その外に広がる空間を、ブーンはよく認識していなかった。
ここが沢山の意識が集まる場所だとすれば、外側に確かに存在した空間は、
一体なんなのだろうか。

もしや、とブーンは身震いする。
自分は、何か取り返しの付かない場所への扉を開いてしまったのか。

モララーが嘘をつく理由は無い。
そう言い聞かせて、ブーンは扉に駆け寄った。

( ・∀・)「また……」

モララーの声が後ろから聞こえてくる。

( ・∀・)「会えると、良いですね」

ブーンは振り返らず、目の前の扉を急いて押し開けた。
外側には何も無い。あくまでも観念的な表現しかできないが、そこには何もないのだ。
時間が流れているのか、そもそも空間が広がっているのかも定かではない。

意味不明なものは意味不明なままで放置しつつ、ブーンは足を踏み出す。
その時、ブーンは夢の中で初めて現実的な恐怖を覚えた。

瞬間、景色が移り変わって真っ黒な天井が視界に映る。


99 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:08:16.60 ID:NAyDS5cH0
そこは自室だった。確かにブーンは現実に戻ることが出来た。いや、現実だろうか。

不意にドラえもんの「うつつまくら」という秘密道具を思い出す。
見た夢が現実になるという道具で、それを使ったのび太は、
自分が天才である夢を現実にした。
それから紆余曲折あって、結局のび太は世界を元に戻すことを決意し、
もう一度うつつまくらで眠る。
目を覚ました世界でドラえもんは言う。「え、そんな道具知らないよ」と。

一旦読んだ時は笑ってそれで終いだったのだが、今思い返せば背筋が凍る。
果たして今覚醒しているこの場所は夢幻か現か。

言いようのない不安を感じてブーンは部屋の電気を点けた。
変わらない室内。消えているものも現れているものも見当たらない。

時計を見ると、ちょうど日を跨いだところだった。
就寝時刻からあまり時間は経過しておらず、
モララーの言っていた、あの部屋と現実世界の時間経過が同一のペースだという話は、
やはり真実なのかもしれない。

頭が酷く痛い。眠気を通り越した頭痛だ。
中途半端に眠ったからか、本当は今まで一睡もしていなかったからなのか。

大きな震動音が響き、仰臥しているからだが大きく跳ねた。
携帯のバイブレーションだと気付くのに少し時間がかかる。

(;^ω^)「な、なんだお。メールじゃないかお。おどかすなお」

不必要に声を出し、携帯を手に取る。
ディスプレイに、新着メール四十九件と表示されている。


101 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:10:38.16 ID:NAyDS5cH0
( ゜ω゜)「よんじゅええええええ!?」

四十九件。四十九件て。

真っ先に思い浮かんだのはドクオの顔だ。

('∀`)「オキニのビキニ着てみたんだけど、どお?」

的なメールが四十九件。
M字開脚、雌豹のポーズ、だっちゅーのその他諸々のドクオパラダイス。有り得る。

或いはハインだろうか。

从 ゚∀从「ほうら、おっぱいだぞ。金は、後払いでいいからな」

的なメールが四十九件。
一枚五百円、いや、一枚千円かもしれない。四十九枚で四万五千円。有り得る。

そんなどうでもいい想像は、ブーンの高ぶった精神を落ち着かせる作用をした。
いつしか顔もほころび、他人が見ていたら「ニヤニヤすんなきめえ」などと罵られていたに違いない。

メールの数を見た、その時まではブーンの頭に悲観的な考えは皆無だった。
だが、その内容を読んだときブーンは再び戦慄する。

全てが同じ送信者であるというブーンの推測は正しかった。
ただ、その送信者の名がしぃであることは、少なくとも彼にとって予想外だった。



102 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:13:11.15 ID:NAyDS5cH0
『メールしてよ』『ねえ』『寝たの?』『はやく』『寂しい』『電話していい?』『メール返してよ』
『まだ?』『待ってるんだけど』『電話でもいいよ』『かけていい?』『返事ぐらいしてよ』
『嫌いなの?』『まだ寝てないよね?』『私の気持ちも理解してよ』『今日何曜日だっけ?』
『明日数学の朝補習あったっけ?』『電話するね』『どうして出てくれないの?』
『私にも都合があるんだけど』『大好きだよ』『愛してる』『愛してるよ』『好き』『返事して』
『逃げるつもり?』『逃がさないよ』『死にたい』『親ウザい』『私、一緒じゃないと生きていけない』
『私たち二人以外みんな死ねばいいのにね』『外うっさい』『見て、綺麗に切れたよ』
『まだ電話でない気?』『ほんとに寝てる?』『ねえ、寂しい』『重たくてごめんね』『返事して』
『返事来るまでずっとメールするから』『拒否っても無駄だよ』『私、逃がさないから(笑)』
『どうして理解してくれないの?』『かけるね』『起きろよ』『眠い』『まだかなあ』『早くー』
『ずっと一緒にいようね』

絵文字や顔文字、添付されたリストカット画像などを省略すれば、
上記のような内容のメールが四十八通(順不同)。
そしてついさっき届いたメールには、

『会いに行くね』

と書かれていた。
ほとんど全てが一言メールであるのは、およそ一分に一通という送信ペースだからだろう。

勿論これら全てにブーンが目を通したわけではない。
彼が読んだのは五通程度である。しぃという女の脅威を知るならばそれで十分だった。

今のブーンにとってはこれらの文字列全てが恐怖でしかない。
しかし何より怖れるべきは、ブーン自身にしぃという女を全く知らないということである。
道端でチンピラに因縁をつけられる以上に理不尽だ。

それに、会いに行くということはつまり、少なくとも彼女の方は、
ブーンの元に行くことが出来るほどには知っているということなのだ。



103 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:16:25.24 ID:NAyDS5cH0
手の中で再び携帯が震えだし、ブーンは慌てて机の上に投げつける。
着信拒否をするという考えが、この時のブーンの頭にはなかった。
必死の形相で布団に潜り込む。お化けを怖がる幼稚園児のような仕草だった。

まさか会いにくるなんてことはあるまい、とブーンは自分に言い聞かせる。
脅しだ。脅しに決まっている。何故脅すのかはわからないが、脅しなのだ。そうだ。そうに。

彼は眠ろうと努力するが、努力すればするほど目が冴えていく。
かといって深夜、このまま起きていることには耐えられそうもない。

行間。

行間。

行間。

どれほどの時間が経っただろうか。
ようやくうつらうつらし始めたブーンの耳を、大きな破壊音が劈いた。

ブーンは跳ね起きる。窓ガラスが粉々に粉砕され、
出来上がった穴から今まさに何者かが室内へ侵入しようとしていた。

( ゜ω゜)「だ、誰だお!?」

叫び声にも侵入者は反応しない。床に降り立つと、彼(彼女)はゆらりと立ち上がった。
その背後には巨大な月が煌々と照り輝いている。
シルエットだけが浮かび上がり、顔を判別することが出来ない。
だが、どうやら長髪らしいので恐らく女性だろう。



104 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:19:03.46 ID:NAyDS5cH0
( ゜ω゜)「あ、わ……し、し……しぃ……?」

彼にはそれ以外の人物が考えられなかった。すでに決めつけてさえいたのだ。
ブーンの問いに侵入者は無言のままだった。
だが、ブーンは感覚的に理解した。彼女が口角を吊り上げて笑ったことを。

彼女の右手がギラと光る。見るとその手には立派な出刃包丁が握られていた。

「会いに来たよ」

声が脳幹に響き渡る。
ブーンは逃げようと試みるが後ろは壁だ。逃げられない。
彼女はゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。

「どうして今までメール返してくれなかったの?」

「私、こんなに貴方のことが好きなのに」

「死んで、一緒になろっか」

この時ブーンの頭は、限りない絶望感とどうしようもない恐怖心、
そして「やっぱヤンデレとかそういうのは二次元だけでいいなあ」という。
意味不明な冷静さが入り交じった、自分でも理解できない思考で混雑していた。

その間にも彼女=しぃは接近してくる。
ベッドのそばまで辿り着いた時、彼女は思いきりよく包丁を振り上げた。

ブーンが悲鳴をあげると同時に刃が頭頂部に突き刺さった。
それでも彼は死なず、代わりに目覚めた。


106 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:22:34.95 ID:NAyDS5cH0
( ´ω`)「……」

翌朝。教室。
ブーンは机に突っ伏して半睡状態で夢現を彷徨っていた。
結局昨夜は一睡も出来なかった。いや、しぃに襲われるという夢を見たから、
眠ったことは確かなのだが、あれは睡眠のうちに入るのだろうか。

包丁を突き刺されて目覚めたとき、ブーンは高校受験に合格した時以上に安堵した。
だが、全ての問題が解決したわけではない。
新着メールは順調に増加し、只今二百五十三通にまで到達している。
着信履歴もしぃの名前で埋め尽くされてしまっていた。
着信拒否も考えたのだが、そうすれば本当に会いに来るかもと思い、どうにも踏み切れない。

('A`)「どうした、過呼吸のマラみたいな顔しやがって」

ドクオが話しかけてくる。

( ´ω`)「ドクオ……」

('A`)「ん?」

( ´ω`)「本当にお前のビキニ画像だったらよかったのに……」

('A`;)「な、何故俺が昨日紐ビキニ買ったの知ってるんだコラァ!」

( ´ω`)「……」

('A`)「ほら、もうすぐ誕生日なんだよ。俺のトーチャン」

( ´ω`)「トーチャン?」



107 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:24:09.14 ID:NAyDS5cH0
('A`)「でさ、調べてきたぜ、色々。お前のこととか、図書室の女とか」

ああ、そんなこともあったなあなどと思いながらブーンは頷く。
モララーとしぃのおかげで綺麗さっぱり忘れてしまっていたのだ。

('A`)「……ま、有益な情報は無かったな。どれもこれも、信用に値しない」

( ´ω`)「まあ、そんなもんだろうお」

嫌な予感がする。ブーンは無意識的に物語のテンプレートを思い出していた。

('A`)「でもな、俺のマラが囁いてるんだ」

正夢というものがある。ブーンはそれを、物語上でしか知らず、
実際に自分が見たことも無ければ、他人が見たという話も聞いた覚えがない。

('A`)「そもそもお前の言うみたいに、妄想が現実になって出てきたら、大騒ぎになるだろ?」

( ´ω`)「……」

夢は所詮夢でしかない。だが、フィクションなどではよく正夢や予知夢が登場する。
嫌な夢、気になる夢を見れば、それはほぼ確実に現実と化すのだ。
ましてやブーンは夢に関する病気を患っている。

('A`)「だからさ、これはまだ、お前一人だけの能力なんじゃねえかなって」

これほど胸騒ぎのする夢を見たのは初めてだ。正夢でない証拠などどこにある。



108 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:26:47.37 ID:NAyDS5cH0
意識せずとも時間は流れて昼休み。

そういえば、夜を越して以降、しぃからのメールや電話は一切無い。
携帯電話は静かなままである。

ブーンはただ悩み考えていた。
予測はすでに確信として脳内で凝固している。
しぃは近いうち、必ず目の前に現れるだろう。そしてその手には出刃包丁が握られているはずだ。

('A`)「さて、メシ食うぞ、メシ」

ドクオがパンの入った袋を抱えてやってくる。今日はスピーカーから音楽が流れてこない。
ドクオの乱入を懸念したか、放送部員がショックで立ち直っていないかのどちらかだろう。

その時、ようやくブーンの頭に案が思い浮かんだ。

( ^ω^)「ドクオ」

('A`)「ん、どうした。露出大会か?」

( ^ω^)「……ちょっと、ついてきてくれないかお?」

('A`*)「やん、ブーンったらぁ……お・ま・せ・さ・ん」

( ´ω`)「……」

顔を赤らめてもじもじしているドクオを無視して、ブーンは教室を出る。
目指す場所は図書室。彼女に、会いに行くのだ。



115: ◆xh7i0CWaMo : 2008/09/23(火) 00:46:58.74 ID:NAyDS5cH0
廊下は行き交う生徒達で賑わっている。
その中をブーンは早足で歩いていく。

('A`)「ぶ、ブーン。でもさ、俺、さっきオナニーしたばっかだから、
    あまりこう、精子的なものが出てこないかもしれないs」

( ´ω`)「いつオナニーしたんだお……」

('A`)「数学教師の尻がいつもより張りがあって。そのう」

言うまでもなく数学教師は男性だが、そんなことはどうでもいい。

('A`)「わかってるよ。あれだろ? 図書室に行くんだろ?」

( ^ω^)「……」

('A`)「当人に訊くのが一番だからな。他に調べようが無いし。
    とりあえず彼女が昨日いた図書室に行ってみるわけだ。
    で、色々聞き出してみる。昨日は途中で彼女いなくなっちゃったわけだし。
    散々問いただして、で、そのまま流れるように3Pへ」

( ^ω^)「最後ちょっと違うお」

ともあれ、ドクオは一応正しい認識をしているらしく、説明する手間が省けた。
渡り廊下を歩く。人通りが少なくなり始める。

そして図書室がある校舎へ入ろうとした時、ブーンは行く手に直立する女子生徒を発見した。



117 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:50:33.70 ID:NAyDS5cH0
嫌な予感しかしない。ブーンは歩みを止める。

('A`)「ん、どうした、ブーン」

( ^ω^)「……」

目の前の彼女はまっすぐこちらを眺めている。
両手を後ろにやっており、所謂「休め」の恰好で突っ立っているのだ。
後ろ手に何を持っているかは定かでない。

('A`)「……お、痩身のカワイコ」

不意にポケットの携帯が震えた。
彼女を窺いながらゆっくり手を突っ込み、取り出す。
新着メールが一件。内容は、もうほぼ予想出来ている。

はたして、そのメールには書かれていた。

『やっと会えた』

ブーンがその文面を読んだ直後、目の前の彼女=しぃが、
携帯電話をポケットにしまいながら、凄まじい高笑いを響かせた。


119 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:53:28.51 ID:NAyDS5cH0
(*゚ー゚)「ブーン」

彼女はブーンの名前を呼んだ。やはりブーンを知っているのだ。
だが、その顔を見てもやはりブーンには覚えが……いや、ある。
一昨日の夢。だとすれば、彼女もクーと同様に。

(*゚ー゚)「ずっと、探してたんだよ」

ゆっくりと歩み寄ってくる。靴音が響く。三人以外、周りには誰もいない。
顔には接着剤で貼り付けたかのような笑顔。ピクリとも動かない表情にはある意味感心する。

(*゚ー゚)「いっつも、一人でどこか行っちゃうんだから……」

( ^ω^)「あの」

(*゚ー゚)「……なあに?」

( ^ω^)「しぃさん……ですかお?」

(*゚ー゚)「知ってるくせに」

( ^ω^)「ええと、あの、多分しぃさんは、勘違いしてるんだと思うんですお。
      なんていうか、その、僕、しぃさんのこと何も知らないし……」

一体何を話しているんだというような顔でドクオが二人を眺める。
ブーンは彼女を説得しようと躍起だ。ここで逃げても、いずれ彼女はまた現れるだろうから。

彼の言葉に、しぃは立ち止まった。そして、キョトンとした顔でブーンを見つめる。
何かを考えているようには見えない。白痴じみた顔に純粋そうな瞳だけが光っている。



121 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 00:57:56.88 ID:NAyDS5cH0
(*゚ー゚)「そう」

やがてしぃは言った。誤解が解かれたようには、とても思えない声色で。

(*゚ー゚)「そうするんだ。ブーンは、全部忘れたことにしたいんだね」

やはり無理だ。精一杯の冷静さが崩壊しそうになる。
今にも逃げ出したい。だが、背中を向けた瞬間に死にそうな気がする。

(*゚ー゚)「他に、好きな女の子が出来たの? それとも私のことが嫌になった?
     なんで何も言わないでどこかに行っちゃったの?
     こんなところまで。ここまで、すごく頑張ったよ」

さらに歩みを進める彼女。リストカット傷の見える腕が出刃包丁と共にブーンに向けられる。

(*゚ー゚)「やっぱり……こうするしか、無いんだね」

(;^ω^)「……!」

('A`)「なんだよー。こんな可愛い子が彼女だったのかよー。
   俺との関係は一体なんだったんだよー」

ドクオが状況を理解しきれないのも当然だ。ブーンにだって無理な話である。
まず、このパラノイド女をどうにかしなければならない。だがどうしようもない。

やはり逃げるしかない。そう思い、ブーンは背中を向け、走り出そうとして、また立ち止まる。

川 ゚ -゚)「……」

視線の先に、件の少女が立っていた。



123 : ◆xh7i0CWaMo :2008/09/23(火) 01:00:20.14 ID:NAyDS5cH0
川 ゚ -゚)「ここでお前が死ぬのは、非常に惜しい」

前と同じく意味深そうな言葉を吐き、クーはしぃの行く手を阻むようにしてブーンの前に立った。

川 ゚ -゚)「……ブーン、忘れたか」

(;^ω^)「……なんだお?」

川 ゚ -゚)「無意識をなめるなと、私は言った。そして現に、のっぴきならない事態が起きている」

しぃのことだろう。この事態は、やはり彼女と関係があるようだ。無意識無意識とクーは連呼する。
一体それは、何なのだろう。そういえば、モララーも無意識と言っていた。

(*゚ー゚)「あなたが……ブーンの……」

当然するべき勘違いをしぃはしている。

(;^ω^)「どど、どうするつもりだお」

静かに相手を睨め付けているクーに、ブーンは訊ねた。

川 ゚ -゚)「……忘れたか、ブーン」

( ^ω^)「?」

川 ゚ -゚)「私は、『魔法』少女だ」

……ああ、そういえば、そうだった。

第二話『ネガティブアンハッピー・出刃包丁エッヂ』終わり



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